「うちの子は元気」だからこそ受けてほしい、犬猫の健康診断

「うちの子は元気」だからこそ受けてほしい、犬猫の健康診断

この記事について

動物の健康に関わる仕事をしている立場から、
今回は「犬や猫の健康診断」について少し真面目にお話しします。
医療の話と聞くと難しく感じるかもしれませんが、
飼い主さんだからこそ知っておいてほしい大切なことです。

🐶 健康診断は“病気を探すため”だけじゃない

「うちの子は元気だから、まだ大丈夫」――そんな声をよく聞きます。
でも健康診断の本当の目的は、病気を見つけることだけではありません。
今の健康な状態を記録しておくことが、とても大切なんです。

血液検査やエコー、レントゲンなどの画像検査の結果を積み重ねていくことで、
小さな変化にも気づけるようになります。
去年より少し肝臓の値が上がった、腎臓の数値が安定している――
そんな“変化のサイン”を見逃さないための手段が健康診断です。

📊 個体差を知ることが、いちばんの「予防」になる

血液検査では、検査の結果と参考基準範囲を比べて結果を見ます。
この参考基準範囲とは、健康な犬や猫たちのデータを集めて作られた
「おおよその平均値」のようなものです。
つまり、その範囲内であれば多くの健康な動物が含まれる、という目安なんです。

ただし、その基準はあくまで“平均”であって、絶対的な正解ではありません。
体格・年齢・生活環境・食事内容などによっても数値は少しずつ違います。
だからこそ、健康なときの自分の子の数値を知っておくことが、
将来の変化に気づくための大切な手がかりになります。

犬や猫の体は、人間と比べても個体差がとても大きいです。
これは少し悲しい話ですが、長い年月の中での品種改良によって、
それぞれの犬種・猫種に独自の体質や傾向が生まれたためです。
たとえば、心臓に負担がかかりやすい大型の猫種や、
代謝がややゆるやかな小型犬などもいます。
だからこそ、「基準値から外れた=悪い」ではなく、
その子の“いつもの状態”を知ることが何より大切なんです。

たとえば、炎症を調べるために犬ではCRP、猫ではSAAという項目を測定します。
健康なときの数値を知っておくことで、体調を崩したときに
「どのくらい上がったのか」がわかり、より正確な判断ができます。
同じ“10”という数値でも、普段“0.5”の子と“5”の子では意味が違うんです。

さらに、検査機械や検査会社によって参考基準は少しずつ違います。
だからこそ、ネットで他の子と比べるよりも、
「うちの子の今」と「うちの子の前回」を比べることが大切。
そしてその数値の解釈は、必ず獣医師と一緒に確認しましょう。

🩺 健診の前に気をつけたいこと

血液検査の中には、絶食が必要なものもあります。
食後に受けると血糖値や中性脂肪が高く出ることがあるため、
病院からの指示をしっかり確認しておくと安心です。
迷ったら「朝ごはんをあげてもいいですか?」と聞いてみましょう。
少しの準備で、より正確な結果が得られます。

🕐 健診はいつ・どのくらい受ければいい?

できれば年に1回のペースで健康診断を受けましょう。
7歳を過ぎたシニア期の犬猫は、半年に1回を目安に。

犬の場合は、フィラリア検査の時期(春)に健康診断を一緒に行うのがおすすめです。
一度の採血で両方の検査ができるため、身体への負担も少なく、通院もスムーズです。

猫の場合は、犬が多く来院する春先を避けて、秋ごろに受けるのが理想的。
待合室の音や匂いなどに敏感な子も多いので、落ち着いた時期にゆっくり検査してあげましょう。

「じゃあ、何歳から受ければいいの?」と思うかもしれませんね。
理想は1歳を過ぎたころから、一度受けておくことです。
若いうちは元気に見えても、体の中の数値や臓器の状態を知っておくことで、
その後の変化がより正確にわかるようになります。
生まれたばかりの子犬・子猫では難しいこともありますが、
成長が落ち着く1歳前後を目安に、まずは軽い健診から始めてみましょう。

🫀 エコー・レントゲンで「中の健康」を知る

血液検査では見えない部分を調べるのが、エコー(超音波)やレントゲン検査です。
臓器の形や大きさ、位置を記録しておくと、次に受けたときの変化が一目でわかります。

たとえば心臓病の初期では、心筋の厚みや形にわずかな違いが出ます。
健康なときのデータがあると「前より少し変わっているかも」と早めに気づけます。
この“比較できる情報”が、病気の早期発見につながるんです。

⚖ 家でもできる!簡単な体重チェック

体重は、健康を知るうえでとても大切な指標です。
特別な機械がなくても、家庭用の体重計で十分測定できます。

やり方は簡単。
まず自分の体重を測ります。
次に、犬や猫を抱っこして一緒に測り、その数値から自分の体重を引きます。
これでおおよその体重がわかります。
家庭用の体重計でも誤差は小さいので、毎月1回くらい測って記録しておくと安心です。

食欲や元気は変わらないのに体重が減っている場合、
体の中で何かが変化しているサインかもしれません。
「なんとなく気になるな」と思ったら、次の健診で獣医さんに伝えましょう。

🌤 健診は“安心を積み重ねる時間”

健康診断を受けても、すべての項目が完璧に正常という子は実は少ないです。
少し高め、少し低め――そんな数値も、「その子のいつもの値」として記録しておくことで、
次に変化があったときにすぐに気づけるようになります。

健康診断は「病気を探すためのもの」ではなく、
その子を守るための情報を積み重ねていく時間です。
そして何より、その子の小さな変化に最初に気づけるのは、
毎日そばにいる飼い主さんです。

💬 まとめ

犬や猫は言葉で「調子が悪い」とは言えません。
だからこそ、数値や検査という“言葉の代わり”を通して、
体の声を聞いてあげることが大切です。

今はネットでなんでも調べられる時代ですが、
犬や猫の健康は個体差がとても大きいものです。
だからこそ、その子を日々見ている飼い主さん、
そして実際に診てくれる獣医師にしかわからないことがたくさんあります。
どうか、一般的に言われる健康指標だけで判断せず、
年一回の健康診断の積み重ねや毎日のスキンシップなどを通して
目の前の小さな変化に気づいてあげてください。